災害時におけるトイレの使い方
近年、大雨や大地震等の災害が各地で発生しています。マンションの居住者については、建物に構造上大きな問題がなければ、基本的に在宅避難となります。その際、問題になるのがトイレです。今回、災害時におけるマンションでの水洗トイレの使い方についてのポイントを整理してみました。
大地震や大雨の直後は水洗トイレを使わない
大地震(震度5以上が目安)や大雨で周囲が浸水したとき、マンション内の水洗トイレは基本的に使用しないことが必要です。
なぜなら、大地震ではマンションの建物内の排水管や建物から公共下水道へいたる排水管・排水桝が損傷したりする可能性があります。また、大地震では地盤の液状化などによって公共下水道が被害を受けたり、大雨で周囲が浸水すると公共下水道が満水になることがあります。
その場合、マンション内の各住戸で水洗トイレを使用すると、排水管等の損傷個所から汚水が漏れたり、1階住戸のトイレで封水の跳ね出しや汚水の逆流が起こる可能性があるのです。これは、水道が使えるときだけでなく、浴槽の残り湯やペットボトルの水でトイレを使うケースも同じです。
管理組合としてマニュアルを整備
水洗トイレの使用を禁止とするかどうかの判断は、それぞれ個人で行うのは無理があります。
そこで、管理組合として事前にマニュアルを用意した上で、理事会が下記の点を踏まえて判断するのが望ましいとされます。
① 建物内の排水立て管や排水横主管の異常の有無(目視等)
② 建物から公共下水道へ至る、敷地内の排水管および排水桝の異常の有無(目視等)
③ 公共下水道の利用制限の有無
なお、これらの確認が済むまでは暫定的に使用禁止とする運用方法も必要でしょう。
各住戸では携帯トイレを使用
水洗トイレの使用が禁止されている間は、各住戸において「携帯トイレ」を使います。携帯トイレは持ち運びできるコンパクトサイズの非常用トイレで、消臭力の高い凝固剤が入っており、使用後は汚物を固めて廃棄します。
携帯トイレの取り付けは、いったん便座を上げた状態で便器にポリ袋を被せ、その後、便座の上に置いて使用します。
「携帯トイレ」は1回ごとの使い捨てであり、「1日あたり5回分×人数分×7日分」を用意するのが目安とされます。また、使用済みの携帯トイレが回収(通常は燃えるゴミとして回収)されるまでは各住戸で保管することになるので、密閉できるゴミ箱や中身の見えない黒いポリ袋を用意しておくとよいとされます。
使用再開の判断について
建物内や敷地内の排水管等を点検して目立った損傷がなく、公共下水道の使用も制限されていない場合、排水設備の機能点検を兼ねて使用再開の判断をします。排水管等は壁の中に隠れていたり、地中に埋められているため損傷の有無は水を流してみないとわからないことがあるためです。
もし、水洗トイレの使用を再開してみて、1階住戸だけでなく他の階の住戸においても漏水や封水の跳ね出しなどトラブル発生の予兆があれば、その上流系統でのトイレ使用を停止します。
なお、トイレの使用再開が可能と判断されても、断水等で給水がストップしていればバケツ洗浄を行います。ただ、バケツ洗浄の場合は排水能力が低いため、詰まりを防ぐためにトイレットペーパー等は流さないようにします。
大雨や大地震などの災害時におけるマンションでのトイレ使用は、極めて重要な問題であるにもかかわらず、これまで社会的な関心も低い状況です。今後、それぞれの管理組合では情報収集を進め、「災害時のトイレ使用マニュアル」を策定することをお勧めします。また、その運用にあたっては区分所有者など居住者の理解と協力が不可欠であり、説明会などを実施していくことが大事です。
参考資料
国土交通省『災害時のトイレ、どうする?』
https://www.mlit.go.jp/common/001180224.pdf
公益社団法人空気調和・衛生工事会
集合住宅の在宅避難のためのトイレ
使用方法検討小委員会
『集合住宅の「災害時のトイレ使用
マニュアル」作成手引き』
https://www.shasej.org/iinkai/200603/20200603.pdf
日本トイレ研究会
『災害用トイレガイド2024』
https://www.toilet.or.jp/wp/wp-content/
uploads/2024/10/saigai_toiletguide2024.pdf