役員報酬と協力金について
近年、多くの分譲マンションで管理組合の役員(理事および監事)の“なり手”不足が深刻化しています。
その背景には、区分所有者の高齢化、住戸の賃貸化(外部所有者の増加)、共働き世帯や単身世帯の増加などがあるのではないかといわれます。
いずれにせよ、役員のなり手が不足すると、特定の区分所有者にばかり負担がかかったり、管理組合や理事会の活動が停滞したりして、最終的にはマンション全体が管理不全に陥ることになりかねません。こうした状況への対策としては、次のような方法が挙げられます。
①役員報酬の支払い … 役員の負担の補償
②辞退者等からの協力金の徴収 … 不公平感の解消
③役員の定数を減らす … 役員になる頻度の低減
④外部専門家への委任(第三者管理) … 役員の一部または全部の廃止
このうち、①と②は直接には役員の“なり手”不足解消につながるわけではないかもしれませんが、少しでも役員の負担をカバーし、また区分所有者間の不公平感を解消するものです。
役員報酬の導入割合と金額の目安
管理組合の理事や監事に対し、一定の報酬を支払うのが役員報酬制度です。役員に就任した区分所有者に役員報酬を支払うことができることは、マンション標準管理規約第37条にも規定されています。
※各マンションの管理規約への記載は任意。
(役員の誠実義務等)
第37条 役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
2 役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
国が行った『平成30年度マンション総合調査』によると、「役員全員に報酬を支払っている」のは全体の23.1%でした。また、大手管理会社である大和ライフネクストの調査では、同社が管理受託している3961組合のうち9.4%で「役員報酬」の支払いが行われていました。
いずれの調査においても、築年数が経過したマンション、外部所有者が多いマンションほど、役員報酬を導入している割合が高くなっています。
なお、国の『マンション総合調査』と大和ライフネクストの数値には開きがありますが、調査対象となっているマンションの築年数の違いなどが影響しているのではないかと思われます。
支払い額については、各役員が「一律」の場合と「一律でない」場合があり、また固定報酬の場合と会議などへの参加の回数に応じて支給する場合があります。
『平成30年度マンション総合調査』における「一律でない場合」の役員別の平均額は下記のとおりでした。
役職 | 理事長 | 理事 | 監事 |
平均月額 (年額) | 9500円 (11万4000円) | 3900円 (4万6800円) | 3200円 (3万8400円) |
大和ライフネクストの調査では、「役職ごとに異なる」理事長のみ金額設定が異なる」「一部の役職のみに至急」の場合で、それぞれの平均額は下記の通りでした。
平均金額 | ||||
理事長 | 副理事長 | その他の理事 | 監事 | |
年額設定の場合 | 39,247円/年 (3,271円/月) | 18,688円/月 (1,557円/月) | 14,513円/月 (1,209円/月) | 15,963円 (1,330円/月) |
1回当たり金額設定の場合 | 2,787円/回 | 1,731円/回 | 1,400円/回 | 2,150円/回 |
こちらも金額に差がありますが、役員報酬を導入している割合と同じく、調査対象となっているマンションの築年数の違いなどが影響しているのではないかと思われます。
協力金の徴収はより慎重に
役員報酬制度とは逆に、役員への就任を辞退したり、役員でありながら理事会に出席しない区分所有者に対して、一定の協力金の支払いを求めるのが協力金制度です。
大和ライフネクストの調査によると、同社が管理受託する管理組合のうち5.8%で「協力金」の設定がありました。
また、協力金の額は、年額に換算すると1万円以上1万5000円未満が34%と最も多く、次に2万円から2万50000円未満が20%。月額にすると1000円から2000円の範囲が半数以上。最低額は年額200円、最高額は年額6万円でした。
ちなみに、いわゆる「協力金」の支払について裁判になったケースがいくつかあり、月額2500円の設定について争われた裁判では管理組合側が最高裁で勝訴しています。
事件番号 平成20(受)666、 平成22年1月26日、 最高裁判所第三小法廷
判示事項 | 団地建物所有者全員で構成されるマンション管理組合の総会決議により行われた自ら専有部分に居住しない組合員が組合費に加えて住民活動協力金を負担すべきものとする旨の規約の変更が,建物の区分所有等に関する法律66条,31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たらないとされた事例 |
裁判要旨 | 団地建物所有者全員で構成されるマンション管理組合の総会決議により行われた自ら専有部分に居住しない組合員が組合費に加えて月額2500円の住民活動協力金を負担すべきものとする旨の規約の変更は,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,建物の区分所有等に関する法律66条,31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たらない。 (1) 当該マンションは区分所有建物4棟総戸数868戸と規模が大きく,その保守管理や良好な住環境の維持には管理組合等の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠である。 (2) 当該マンションにおいては自ら専有部分に居住しない組合員が所有する専有部分が約170戸ないし180戸となり,それらの者は,管理組合の役員になる義務を免れるなど管理組合等の活動につき貢献をしない一方で,その余の組合員の貢献によって維持される良好な住環境等の利益を享受している。 (3) 上記規約の変更は,上記(2)の不公平を是正しようとしたものであり,これにより自ら専有部分に居住しない組合員が負う金銭的負担は,その余の組合員が負う金銭的負担の約15%増しとなるにすぎない。 (4) 自ら専有部分に居住しない組合員のうち住民活動協力金の支払を拒んでいるのはごく一部の者にすぎない。 |
この判例からも分かるように、協力金制度は一定の合理性があれば総会決議による規約改正で認められると考えられますが、協力金を支払う側からすればある種のペナルティの性格があることは否めません。また、病気やケガ、親族の介護などの事情を抱えているケースもあり、免除を認めるなど柔軟な運用が求められます。
役員報酬制度に比べて協力金制度の導入は、丁寧な合意形成とともに運用面についての配慮などが必要といえるでしょう。