買ったマンションに不具合があったらどうする?(2) – コンクリートの〝かぶり厚さ〟とは何か? –
2023年3月、三重県志摩市のリゾートマンションの管理組合が、建物の欠陥を理由として施工会社と売主に対して約3億円の損害賠償を求める訴えを起こしました。「建物の欠陥」とは具体的にはコンクリートの〝かぶり厚さ〟の不足です。コンクリートの〝かぶり厚さ〟とはどういうことでしょうか。
多くのマンションは建物の柱や梁などの骨格(構造躯体)が鉄筋コンクリートでできており、「鉄筋コンクリート造(RC造)」といいます。
鉄筋コンクリートの特徴は、引っ張りに強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートを組み合わせることで強度が非常に高いということです。
また、鉄筋は火に弱く錆びやすい弱点がありますが、熱に強く強アルカリ性のコンクリートで鉄筋を覆うことで耐火性や耐久性にも優れます。
ただ、コンクリートは強アルカリ性ですが、大気中の二酸化炭素に触れることで表面から少しずつ中性化していきます。
そして、コンクリートの中性化が鉄筋にまで達すると鉄筋が錆びて膨張し、まわりのコンクリートを破壊する「爆裂」という現象が起こります。こうなると鉄筋コンクリートの強度は大幅に低下してしまいます。
そこで重要になるのが鉄筋を覆うコンクリートの厚さ(〝かぶり厚さ〟)です。建築基準法施行令では、建物の部位別に〝かぶり厚さ〟についての規定を定めています。
(鉄筋のかぶり厚さ)
建築基準法施行令
第79条
鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さは、耐力壁以外の壁又は床にあつては2センチメートル以上、耐力壁、柱又ははりにあつては3センチメートル以上、直接土に接する壁、柱、床若しくははり又は布基礎の立上り部分にあつては4センチメートル以上、基礎(布基礎の立上り部分を除く。)にあつては捨コンクリートの部分を除いて6センチメートル以上としなければならない。
2 前項の規定は、プレキャスト鉄筋コンクリートで造られた部材であつて、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものについては、適用しない。
また、実際の建築工事は屋外での現場作業であり、工場でのライン生産に比べるとそれなりの誤差が生じます。そこで日本建築学会では施行令より1㎝(10㎜)ないし2㎝(20㎜)プラスした「設計かぶり厚さ」を定めており、マンションを含め建築工事では通常、これを採用しています。
●日本建築学会「鉄筋コンクリート造配筋指針」による鉄筋の設計かぶり厚さ
部位 | 仕上げあり | 仕上げなし | 施行令に定める値 | ||
土に接しない部分 | 床スラブ・屋根スラブ 非耐力壁 |
屋内 | 30㎜以上 | 30㎜以上 | 20㎜以上 |
屋外 | 30㎜以上 | 40㎜以上 | |||
柱・梁・耐力壁 | 屋内 | 40㎜以上 | 40㎜以上 | 30㎜以上 | |
屋外 | 40㎜以上 | 50㎜以上 | – | ||
擁壁 | 50㎜以上 | 50㎜以上 | |||
土に接する部分 | 柱・梁・床スラブ・屋根スラブ・壁 布基礎の立ち上がり部分 |
– | * 50㎜以上 | 40㎜以上 | |
基礎・擁壁 | * 70㎜以上 | * 70㎜以上 | 60㎜以上 |
* 軽量コンクリートの場合は 10mm 増
なお、コンクリートの中性化の速度はコンクリートに含まれる水の量、周辺大気の二酸化炭素の濃度、コンクリート表面の仕上げなどによって変わってきますが、一般的な目安として1年に0.5mm程度といわれます。
単純計算ですが〝かぶり厚さ〟が3㎝(30㎜)であれば鉄筋のところまでコンクリートの中性化が進むにはおよそ60年かかることになります(30㎜÷0,5㎜=60年)。
今回の志摩市のリゾートマンションのケースではどれくらい〝かぶり厚さ〟が不足していたのかは不明ですが、剥がれ落ちた箇所においてはおそらく数ミリ単位ではないレベルで不足していたのではないかと思われます。
では、なぜ〝かぶり厚さ〟不足するのでしょうか。
鉄筋コンクリートの工事では、鉄筋を組んだ後、生コンを流し込むため鉄筋を型枠パネルで囲みます。その際、〝かぶり厚さ〟を確保するため鉄筋と型枠パネルの間に「スペーサー」と呼ばれる部材を設置します。このスペーサーの設置が適切でないと〝かぶり厚さ〟が不足することになるのです。
今回もおそらく、廊下やベランダの天井部分でコンクリートを打設する際、型枠の底の部分でスペーサーの設置が不適切だった可能性があると思われます。
意図的かどうかは別にして、こうしたスペーサーの設置のミスは他のマンションでも十分、起こり得ます。
●スペーサーの例