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専用使用部分の「通常の使用に伴うもの」の意味について

株式会社ソーシャルジャジメントシステムSJSコラム 専用使用部分の「通常の使用に伴うもの」の意味について

専用使用部分の「通常の使用に伴うもの」の意味について

分譲マンションの建物には複数の住戸があり、それぞれが専有部分として区分所有権の対象となります。また、専有部分以外のところは共用部分となり、区分所有者全員の共有となります。当たり前のように思えますが、実際には専有部分と共用部分を巡っていろいろな問題があります。今回は、専用使用部分の「通常の使用に伴うもの」の意味についてです。

●共用部分のうち特定の区分所有者が利用できる「専用使用部分」

共用部分の管理等は管理組合が行い、その費用も管理組合が負担するのが大原則です。しかし、「専用使用部分」については少々異なります。

「専用使用部分」とは、バルコニー・ルーフバルコニーや専用庭、駐車場など共用部分ではあるものの特定の区分所有者(住戸)のみが使用できる箇所です。こうした箇所については通常、「専用使用権」が管理規約において定められ、一定の使用料を支払うことになっています(バルコニーは無償が一般的)。 また、専用使用権が認められているからといって、なんでも自由に使えるわけではありません。例えば、バルコニーや専用庭には物置などを設置しない、駐車場には車以外のものを置かないといったルールが定められているはずです。

●「通常の使用に伴うもの」について裁判になったケース

こうした専用使用部分にもし不具合が生じた場合、基本的には管理組合が費用を負担して修理することになります。

ただし、例外があって国土交通省が公表している標準管理規約では次のように定められています。

(敷地及び共用部分等の管理)

第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

(以下省略)

 ここでいう「保存行為」とは、共用部分を維持する行為のことで、例えば共用部分の点検や破損個所の小修繕等が当たるとされます。

そして、バルコニー等の保存行為のうち、「通常の使用に伴うもの」については管理組合ではなく、専用使用権を持つ区分所有者がその責任と負担で行うというのです。

この点を巡って15年ほど前、裁判になったケースがあります。

あるマンションで、いくつかの住戸のサッシ窓のガラスや戸車、クレセントに経年劣化による不具合が起きました。そこで管理組合が業者に依頼してこれらの修繕を行い、代金も支払った後、このような経年劣化による不具合の修繕は「通常の使用に伴うもの」に当たるとして、それぞれの住戸の区分所有者に修繕費用の支払いを求めて訴訟を起こしたのです。

一審(地裁)の判決では、管理組合の請求が却下されました(区分所有者に支払い義務なし)。理由としては、経年劣化によって多くの住戸において、ほぼ同じ時期に、同じような不具合が生じているから、「通常の使用に伴うもの」とはいえない、ということです。

ところが、二審(高裁)の判決では、逆に管理組合の請求が認められました(区分所有者に支払い義務あり)。理由としては、修繕の対象となった部分はいずれも専用使用権者以外の者が日常的に使用するものではなく、日常的な使用に伴い必然的に劣化していくのだから、経年劣化に基づく不具合は「通常の使用に伴うもの」に該当する、ということです。

両者の違いは、「経年劣化」と「通常の使用」との関係をどう判断するかだと思われます。

地裁の判決は、「経年劣化」とは主に日照、風雨、寒暖差、周辺環境(潮風や排気ガスなど)の作用によるもので、居住者のサッシの開閉等の「通常の使用」はそこには含まれないということでしょう。

一方、高裁の判断は、「経年劣化」の原因には「通常の使用」による影響も含むということでしょう。

 なお、この点について最新の「標準管理規約コメント」では次のように解説しています。いま紹介した裁判例に直接答えるものではありませんが、考え方を整理する参考として、長くなりますが引用しておきます。

<標準管理規約コメント>

第21条関係

①、②省略

③ バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。

④ 本条第1項ただし書の「通常の使用に伴う」保存行為とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入替え等である。

⑤ バルコニー等の経年劣化への対応については、③のとおり管理組合がその責任と負担において、計画修繕として行うものである。

ただし、バルコニー等の劣化であっても、長期修繕計画作成ガイドラインにおいて管理組合が行うものとされている修繕等の周期と比べ短い期間で発生したものであり、かつ、他のバルコニー等と比較して劣化の程度が顕著である場合には、特段の事情がない限りは、当該バルコニー等の専用使用権を有する者の「通常の使用に伴う」ものとして、その責任と負担において保存行為を行うものとする。なお、この場合であっても、結果として管理組合による計画修繕の中で劣化が解消されるのであれば、管理組合の負担で行われることとなる。

⑥ バルコニー等の破損が第三者による犯罪行為等によることが明らかである場合の保存行為の実施については、通常の使用に伴わないものであるため、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、同居人や賃借人等による破損については、「通常の使用に伴う」ものとして、当該バルコニー等の専用使用権を有する者がその責任と負担において保存行為を行うものとする。

⑦以降省略  当たり前のように思っている専用部分と共用部分の区別や費用負担について、今回取り上げた判例のようなケースは稀かもしれませんが、問題が発生する前に管理規約や細則で取り決めておく、あるいは検討しておくことが解決策のひとつではないでしょうか。